『方丈記』は、平家の隆盛から源平の争乱、鎌倉幕府三代の終焉に至る中世の激動期を反映した無常感を綴っていますが、連続して体験した大災害の迫真のルポルタージュとしても注目を集めています。京の都が一夜で灰燼に帰した「安元の火災」、家屋が次々と倒壊した「治承の竜巻」 、2年間にわたる旱魃と疫病で無数の餓死者を出した「養和の飢饉」、平家による突然の「福原遷都」による人と建物の移転をめぐる大混乱、地が裂け津浪が襲い余震が数十日続いた「元暦の地震」、微に入り細を穿つ描写には改めて驚かされます。大飢饉の中、僅かな食料を愛する肉親に先に食べさせる情の深い者ほど先に死んでいったこと、大地震がおさまるとやがて人々の口の端にものぼらなくなってしまうことなどの記述も心に響きます。
それらの大災害の迫真の描写にも驚かされますが、日常生活の中での自らの心の襞が伝わってくるような心理描写もまた、数百年間のものとは思えないような現代との共通性を感じさせるところがあります。