アメリカの www.jazzbooks.com (Jamey Aebersold Jazz) でベストセラーになったLexicon of Geometric Patterns for Jazz Improvisation の日本語版
本書の目的は、私の研究成果に基づいた「幾何学的」旋律を創造するための手段を提供し、学習者であるミュージシャンの旋律創造の可能性を高めることにあります。
本書は2部構成になっており、パート1は、即興演奏と旋律創造に必要な「メロディック・シェイプ(音形)」を徹底的に網羅した参照用ツール的な内容であり、パート2は、ジョン・コルトレーンを中心としたミュージシャンのアイディアを統合した旋律素材とその発展の可能性を、熟達した技術を探求するインプロバイザー(即興演奏家)に提供する内容になっています。
1999年に「全ての音階の可能性を重複なしに導き出すための音階大辞典 (The Complete Thesaurus of Musical Scales)」が完成し、アメリカで出版された後、日本国内でも、「ジャズ・アプローチによる音階大辞典」としてドレミ楽譜出版社より刊行され、ついに新たなる辞典である「幾何学的パターン辞典」を発表する段階にたどり着きました。
本書のメソッドを特徴づけているものは、表意文字的な「メロディック・シェイプ(Melodic Shapes)」、幾何学的な「ムイジャ (Muija)」と名付けられた学習ボード等による独自の教育システムです。お気付きのように、本書のアイディアの一部は、既刊「ジャズ・アプローチによる音階教本[シンメトリカル・スケール編]」の第4章と近似していますが、更なる研究でアイディアを発展させ、より興味深い「幾何学的パターン」による旋律の創造を可能にしたのが本書「ジャズ・インプロヴィゼーションのための幾何学的パターン辞典」です。
音楽の歴史において、「協和」と「不協和」の価値観が大きく変化してきたように、成長段階にあるミュージシャンの美的感覚の発達も、それぞれ違っているはずです。「インプロヴィゼーション(即興演奏)」という聴覚による芸術は、旋律創造の可能性をこと細かに制限するものではなく、絵の具を混ぜ合わせ、様々な色彩を携えたパレットを持つ画家のごとく、常に色彩的可能性を拡充していくものだと思います。
本書は、ジャズ・サキソフォン奏者で優れたジャズ教育家でもあるデビッド・リーブマン氏とラッガース大学のジャズ・ヒストリー修士課程のディレクターであるルイス・ポーター教授に捧げられています。ボストンあたりで長年停滞していた現代のアメリカのジャズ教育の「質」を飛躍的に向上させた偉業を目の当たりにし、刺激を受け、本書を編纂するための膨大なリサーチを成し遂げました。デビッド・リーブマン氏とルイス・ポーター教授がいなければ、本書を編纂する意欲がかきたてられなかっただろうと思います。
「ジャズ・インプロヴィゼーションのための幾何学的パターン辞典」が、学習者の音楽的語彙の強化を促し、旋律創造の可能性を引き出すことを心から願っております。